弔問客

８月６日、義父が他界しました、８３歳でした。
かみさんは一人娘なので結婚後、高齢の両親と同居することになったのです、早いもので結婚１４年目になります。
７年前に母（義母）が亡くなってからは親子４人で生活していました。

義父が体調を崩したのは２年ほど前で腰を痛めたのをきっかけに病院に通うようになったのですが、以前から気になっていた前立腺もついでに調べてみましょうということになったのです。
本人が言うには排尿障害はすでにあったのですが男性特有の病気ゆえに医者に見せるのを躊躇していたようです。
検査の結果、前立腺に腫瘍があると診断され腰と両方を診てもらう事になったのです。
高齢であるがために手術は無理と言うことで医師との話し合いで投薬治療だけでいこうということになりました。
１年ほどは調子が良かったのですが昨年の夏に再入院、さらに検査をすると腰椎の痛みも骨に転移しているガンのせいであることが分かりました。
その後の治療方針を相談の結果、とにかく本人には痛かったり苦しかったりしないように薬の量を調整しながら行くしかないという結論に達したのです。
そして今年の４月に体の不調を訴え再度入院することになりました。
相変わらず腰の痛みは相当に強いようで、この時点でガン細胞は足にまで転移していたのです。
そして８月、亡くなる前日には自分の妹と弟が面会に来てくれたのですが、その時はウソみたいに元気でこのまま治ってしまうのではないかと思えるほどだったそうです。
８月６日の朝、突然に掛かってきた病院からの電話で、今朝方急に血圧が下がり危険な状態にあるということなので獲るものもとりあえず病院に向かいます。
奇しくも広島に原爆が落とされた時間と同時刻でした。


翌日、翌々日と葬儀のほうも地元の町会、青年会、商店会の協力で小規模ながら心のこもったもので、故人の人柄からか８３歳の高齢にしては沢山の弔問客に来て戴きました。

そして、告別式も滞りなく済ませることができ、親子三人で夕食を食べていた時でした。

「ピンポ〜ン」
「誰か来た」と息子が玄関に出ます。
戻って来て「中村さんが来た」と息子
すっかりくつろいで短パンをはいたまま出迎えに行った私はてっきりご近所の「中村さん」だと思っていました。
「どうも今日は大変お世話に・・・。」・・・あれっ
見たことのある人ですが「中村さん」違いです。
冷静になって考えると、なんとっ！「中村勘九郎さん」ではありませんか。

「済みません、こんな遅い時間に・・・・。」と勘九郎さん
「わざわざ来ていただいたんですね、ありがとうございます、父も大変喜ぶと思います。（感謝）」

中村勘九郎さん、奥さま、それにご子息の七之助さん、勘太郎さんが４人で弔問に来てくれたのです。

義父は晩年個人タクシーの運転手をしていたのですが若い頃に「故中村勘三郎さん」の専属の運転手をしていたことがあったそうです。
それがご縁で中村家の後援会（若鶴会）に入っていたくらいですから、勘三郎の演じる歌舞伎のセリフはすべて暗記している程でした。
勘三郎さんの飼っていた犬でその当時では日本にも数頭しかいなかったピレニアン・マウンテン・ドックを譲り受けて飼っていた話や怪談話の歌舞伎で主人公が毒をもられてお化けに早変わりする場面があるのですが、勘三郎さんが早変わりしている間に声色で歌舞伎座に出演したことがあるという話しを生前よく聞かされました。
そのようなお付き合いをさせていただいていた義父ですから勘九郎さんは子供の頃からよく知っているのです。

遺影を眺めながら「最後は苦しんだのですか？」と聞く勘九郎さんに
「安らかな最期でした」と答えると
「よかった・・・。」と言いながらしばらくの間、手を合わせてくれていました。

舞台が終わってから駆けつけていただいた勘九郎さんご一家には心より感謝いたします。

お互いに親は亡くなってしまいましたが「縁」というものは永遠に続いていくものなんだなぁ・・・。